思春期のやせ
公開日:2016/07/04
最終更新日:2025/05/02

この記事を監修したドクター
政策研究大学院大学名誉教授 跡見学園女子大学 心理学部臨床心理学科 特任教授鈴木 眞理 先生
思春期は急速に身長が伸びたり、月経(生理)が始まったりするのと同時に、骨の健康を育むためにも大変重要な時期です。過食や摂食障害にならないためにも、食事によりしっかりと必要なカロリーを摂取して健康的な体重を維持することが大切です。
思春期(9~19歳)は一生の健康の土台を作る時期
日本人女性は、10歳から14歳に急速に身長が伸び、次いで体重が増えて、平均12.3歳で初潮を迎えます。この間に栄養が不足すると、遺伝的に決まっている最終身長まで背が伸びなくなります。
月経(生理)は、体脂肪から出るレプチンというホルモンが脳を刺激することで起こるので、体重(体脂肪)が少ないと、初潮が遅れたり、初潮がきてもすぐに月経不順になったりします。エストロゲン(女性ホルモン)は女性らしい体型や皮膚・頭髪を維持して、情緒や脳機能にも影響を与えます。
さらに、大切なのは、女性では18歳頃までに全身の骨カルシウム量がピークになります。これを最大骨量(Peak bone mass)と言います。皮膚が日光の紫外線を吸収して作られたり、魚から摂ったりするビタミンDはカルシウムの吸収を促進して、骨に取り込まれるようにする働きがあります。この過程は炭水化物などによるエネルギーが支え、骨の網目の土台はタンパク質のコラーゲンでできています。
そして、エストロゲンは骨からカルシウムが溶けだすのを適切に調整して、一定量を保っています。女性ホルモンが低下して閉経すると、エストロゲンが必ず減るので、骨から溶け出すカルシウムが増えて、骨がスカスカになって骨粗しょう症になりやすくなります。骨粗しょう症は骨折しやすくなりますので注意が必要です。最大骨量が高い方が骨粗しょう症になりにくいので、骨粗しょう症は老年期だけの病気ではなく、その予防は思春期に始まっています。
思春期は一生の健康の土台作りの時期です。そこで、国は食育基本法という法律を作って学校でバランスの良い食事の指導をしたり、毎年、健康診断をして健康体重かどうか観察したり、適切な運動が勧められたりするのです。
体脂肪と月経と食欲の良い関係
「体脂肪を5%以下に減らして筋肉質の体にしたい」という女子の希望は健康なのでしょうか?思春期には男女とも体重が増加しますが、男子に比べて女子はより体脂肪が増加します。これは、女性らしい丸みを帯びた体型にするとともに、脂肪組織から分泌されるレプチンがエストロゲンを作って月経周期を維持することに必要だからです。
一般的に、女性では体脂肪が12.5%を切るとエストロゲンが低下して80%が無月経になります。レプチンには食欲を抑制する働きがあるため、一定の脂肪組織があることは、月経周期を維持するとともに、同時に過食を抑える働きもあるのです。
また、食前にお腹が空いて、胃がぐーっと鳴るのは、胃からグレリンというホルモンが出ているからです。このグレリンは体重や体脂肪が減少するとたくさん出ることがわかっています。過激なダイエットをすると、結局、異常な食欲がでて、ダイエットを始めた体重より増えてしまい、リバウンドを繰り返している人がいます。これは脳の生理的な自己防衛反応です。
日本人女性はやせ過ぎ
栄養は成長期のために成人より多く必要で、中学生女子(12~14歳)の食事摂取基準は身体活動レベルが「ふつう」の場合、1日あたり約2400キロカロリーです。しかし、実際に摂取されているカロリーはこれを下回っており、世界的には肥満の増加が問題となっている中で、日本では逆に女性のやせの割合が増えていることが大きな問題となっています。
20歳代では5人に一人がBMI18.5未満のやせ過ぎで、1日の食事摂取カロリーは第二次世界大戦直後を下回っており、月経異常や不妊症の原因になっています。この背景にはやせを礼賛するマスメディアやSNS、メタボリック症候群を対象にした健康志向に加えて、食事時間を確保できない就労環境や子どもや女性の貧困問題があります。
成長期は身長が伸びる時期と体重が増える時期がずれ、成長の個人差が大きい時期です。小児期・思春期の標準体重は年齢や身長によって違うため、発育曲線や身長別標準体重の計算式(日本小児内分泌学会ホームページ) を参考にすると良いでしょう。
身長別標準体重の計算式では、14歳女子で身長が150㎝の標準体重は0.594(定数)x150㎝-43.264(定数)=45.8㎏です。-20%以下はやせ過ぎと判断されます。
ストレスを強く感じる子どもはダイエットに走りやすい
首都圏の小学4~6年生は、普通体型にもかかわらず女児の約70%、男児でも45%がやせたいと思っていました(深谷和子 2002年)。やせたい理由は、もっとおしゃれができる、自分に自信が持てる、スポーツがうまくできそう、性格が明るくなれる、人からばかにされなくなる、いじめられなくなるなどで、やせが自信や自分の価値につながると認識していました。
注目すべきは、健康を害してでもやせたいと思う児童は、そうでない児童に比べて他人の評価をとても気にする傾向があり、学校や家庭で嫌なことが多いと答えていました。ストレスから逃れるために安易にやせにのめりこんでいくという傾向が認められました。挫折感の挽回やストレス回避の目的でダイエットをする中から摂食障害に進行するリスクも増えます。
ファッション業界に新しい動き
マスメディアは「やせることは健康的で自分に自信が持てる」という刷り込みをしてきました。ダイエット特集の掲載号は購読数が伸び、小さいサイズしか作らないアパレルブランドは希少価値ゆえに人気があり、ファッション誌はモデルの体型をデジタル加工して細く見せていることは周知の事実でした。
しかし、若い女性に多大な影響力を持つという使命と責任を認識したファッション業界は「健康美」を取り戻すアクションを起こしています。2012年5月、「ヴォーグ」誌の19ヶ国の編集長が連名で『ザ・ヘルス・イニシアティブ』を出し、摂食障害のように見えるほど痩せたモデルは採用しないことを決めました。
ティーン向けのアメリカのファッション誌「セブンティーン」は、写真加工による非現実的な美は思春期女性の美意識へ悪影響を及ぼすという8万人以上の署名によって、2012年に写真加工をしないことを宣言しました。
フランスでは、2015年に国民議会下院はやせ過ぎのモデルを雇用しているモデル事務所には6か月以下の禁錮刑や7万5000ユーロ以下の罰が科される修正法案を可決しました。日本でも、日本摂食障害学会が2016年に「痩せすぎモデル規制ワーキンググループ」を立ち上げ、問題に取り組みを始めていますが、まだ全体的な流れにはなっていません。
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