「厚生労働省事業」東京大学産婦人科学講座監修

ヘルスケアラボ健康相談窓口

過食嘔吐する娘について

この病気になってるのに気が付いたのは一年半前です。すぐに病院に行こうと説得したのですが、それから家族ですら避けて、話すこともなく。改めて話をしたのですが死んだ方がいいとも思ってる。と言われこれ以上の説得は逆に追い詰めると思い見て見ぬフリをしていました。

今春から就職して仕事も真面目に頑張っていて、家族とも前のように話したり笑顔も増えました。でも、明らかに量も回数も増えてると確信しています。仕事はもちろん家族と普通に接しようと無理しているのも少し感じます。病院には連れて行きたいのが本音ですが、彼女自身治そうと思っていないのに連れて行くことはよりストレスになるではと素人ながら色々病気に関して調べたのですがこれ以上追い詰めたくない。でも、痩せていく娘・過食嘔吐で苦しんでいるのを見守るだけしかできない事に悩んでいます。

主人とは娘の相談を夫婦だけでも病院に行って相談しようと言われています。仕事柄いずれは異動があり一人暮らしをする事もあるかもしれないので親として完璧な子育てをしてあげられなかったこと。長女として下の2人とは明らかに性格も違いとても気を使う自分が出さない性格の子で、コロナ渦中の大学生スタートして苦労したのに妹は、コロナも落ちつき大学生活を満喫している。そんな事もあり無理矢理病院に連れて行くのは絶対無理なタイプです。

今後、どのように救いの手を足りなくても今の回数を減らせるようにしてやれるのにはどうしたらいいのでしょう?

ヘルスケアラボからの回答

回答者:政策研究大学院大学名誉教授 鈴木眞理先生

22~23歳の就職1年目のお嬢様の、少なくとも1年半、継続する過食と嘔吐、体重減少についてのご相談ですね。ご家族としてさぞご心配なことと存じます。

受診を渋る点だけからも、診断名は神経性やせ症、病型はむちゃ食い/排出型と拝察します。受診を勧められたこと、病気について学ばれたこと、ご両親だけでも医療機関に相談を考えておられること、すべて適切なご判断です。どのような病気も早期発見、早期治療が早い回復につながります。ただ、本症は、本人が病気であることを否定したり、受診を渋ったりして、治療開始が遅れるのが特徴です。

すでに学ばれたと思いますが、本症患者が受診を渋るのは、やせ、過食・嘔吐に大きな心理的メリットがあるからです。アルコールやタバコに似た、自分のストレスを忘れさせてくれる効果があります。やせると嫌なことに対する感受性が鈍くなって、辛い勉強や仕事、挫折感に耐えることができます。嘔吐は心を救ってくれるやせを維持するためですが、過食嘔吐の間は嫌なことを忘れ、嫌な感情を吐き出してすっきりすることができます。やせと過食・嘔吐をすぐに手放すことができないのです。私どもには「誰にもあること、そんなに深刻に考えなくても」と思えるようなテーマでも、本人にとっては耐えがたい苦痛や挫折感になっています。

この病気になられる方は皆さん同じような性格です。きっと、真面目で、お母様に似て完璧主義で、決めたことはきちんとこなす方でしょう。今も、手を抜かずに仕事に励んでおられ、傍からは順風満帆に見えるでしょう。にも拘わらず「死んだ方がいいと思っている」という言葉が出るのはなぜでしょうか?コロナ禍で世界でも日本でも神経性やせ症の新規患者さんは約2倍に増えました。生活が思い通りにいかない、進路にも不安と障害をもたらし、完璧主義の方々には耐えられないストレスだったと思います。ご本人にとって、思い描いた理想とおりの生活が送れない状況なのかもしれません。ただ、やめる勇気もありません。やせと過食嘔吐に支えられて、毎日こなされているのではないでしょうか?だから、症状は悪化しています。

本人自身が病気についてどの程度知っているか不明ですが、本人自身が正確に病気と回復の方向性と方法を知ることが1歩です。実は怖がりの方が多く、正確に学んでいない方も多いです。

今後、ご家族ができることです。

1.落ち着いた時間を作って、病気のことではなく、会社や仕事、コロナ禍での学生生活など話を聴く
共通の趣味など、一緒に過ごす時間を作ると、何気ない会話から始まるかもしれません。意見、解決のためのアドバイス、反論しないで、本人の言うことを聴いて見てください。親に心配かけないように、良い子を演じていても、いろいろな思いがあるだろうと察しながら聴いて欲しいです。ずっと無理してきたなどの本音が出てきたらよいです。心ならずも過度の無理をしている時、幸せと感じていない時に発症する病気です。本音を話しても批判されず、見守ってくれるという体験が有効です。やせや過食嘔吐は本人の心の状態です。心の状態が良ければ、体重も増え、過食嘔吐も回数が減り、時間が短くなります。

2.生命危機には躊躇しないで医療機関へ連れて行く
この病気の患者さんが受診を渋るのは、やせや過食嘔吐を手放すように言われる、あるいは、休職や入院させられることを恐れているからです。体調が悪くても、いつも他人から遅れることを恐れています。そうしないと約束して、健康診断だけに来られる方もあります。会社の健康診断で異常があれば、受診して再検査の通知が会社から来ますので、それを目的に受診の機会を作ることがあります。
身長、体重がわかりません。例として、日本人女性の平均身長158㎝なら標準体重は54.9㎏です。80%、43.9㎏以下が診断基準です。無月経は必発です。やせではなく、無月経を主訴に婦人科で肝機能や電解質(Na、K、Clなど)も検査してもらい、現在の状態が重症かどうか知ることができます。75%、41.2㎏までは通常の勤務がこなせます。65%、35.7kgを切るとこれまでの脂肪に加えて筋肉も落ちて、飢餓に伴う精神症状(頑固、自分で作った決まりに縛られる、うつ気分、不眠、人柄が変わる、思考力・決断力低下など)が悪化し、仕事でもミスが目立ち、心理的治療の効果が落ちます。休職や入院を考慮します。55%、30.2㎏未満で迅速な入院が必要です。また、階段を上るのが遅い、ボーっとしていることがある、なども入院の適応です。本人は拒否しても、「大切なあなたを守りたい」と受診させて下さい。嘔吐による主要な合併症は低カリウム血症、脱水による腎機能障害や酸蝕歯(歯の表面が溶ける)などです。歯科だけは通院している方もいます。

3.ご両親による相談
心配するより、病気の理解が有効です。適切な対処方法を知ることが重要です。この病気の患者さんへの対応は特殊です。良かれと思ってすることが、悪影響になることがあります。叱責、感情的になる、過食の食品を用意してあげる(病気への巻き込まれ)は回復を遅らせることがわかっています。私どもは、過食嘔吐は症状なのですぐには止まらないとして、家族間の葛藤がないように、場所、時間、家族にして欲しいこと(実際は、黙認を希望されることが多いです)、排せつ物の処理方法、費用の負担、冷蔵庫の食品の管理など、落ち着いた時に相談するようにお願いします。ご両親だけが医療機関で相談する(ご本人の受診先になる可能性もあり)、家族会に参加する、などは有効です。摂食障害を診療する専門機関は限られており、予約の待ち期間もあるので、早めに医療機関とかかわりを持つと良いでしょう。

1)正しい情報の入手 摂食障害全国治療支援センター
 摂食障害情報ポータルサイト(一般向け)
 当事者、家族、友人、学校の先生など一般の方向け情報
 相談窓口や、各種支援制度についての情報
2)「相談ほっとライン」適切な医療機関への受診に向けた相談
3)治療拠点病院 相談
 2024年時点で宮城県、千葉県、静岡県、石川県、福井県、福岡県、栃木県、東京都
 それぞれのホームページに相談日時の紹介があります。 
4)一般社団日本摂食障害協会 ご家族対象の講習会など
5)摂食障害の理解とサポートのために
 全国の摂食障害の家族会リストが掲載、家族や支援者のための情報サイト
6)ご家族対象 著書 ビデオ
 1. 家族ができる摂食障害の回復支援
  家族会ポコアポコ主催者
  鈴木高男著
  星和書店 2018年
 2. 摂食障害 理解と回復のために
  NHK厚生文化事業団
  福祉ビデオライブラリー(貸出)

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